フィリップ・コトラーの『マーケティング4.0』で提唱された、接続性の時代(顧客がネットに繋がっている時代)におけるカスタマージャーニーマップの考え方は、従来から大幅に変更されました。
AIDA・AIDMAといったカスタマージャーニーは、認知からアクションに至る過程は一方通行であり、進むにつれて対象となる人々が絞られ、数が少なくなっていく漏斗のような形状をしていました。しかし、近年では、漏斗(=ファネル)の形状は、尻つぼみではなく共有されることにより、細くなった形がまた拡がる、ダブルファネル形状へと進化しています。そして『マーケティング4.0』の5Aカスタマージャーニーでは、ファネルという考え方ではなく、カスタマージャーニーのどこからでも顧客が入り込めたり、飛ばしたりする構造であると紹介されました。
Contents
ネットからの影響を受けない漏斗形状のモデル
AIDAカスタマージャーニー
①注目→②興味→③欲求→④行動
AIDMAカスタマージャーニー
①注目→②興味→③欲求→④記憶→⑤行動
ネットでの共有、拡散が加味されたモデル
5Aカスタマージャーニー
①認知-②訴求-③調査-④行動-⑤推奨
漏斗形状にならないため、→で表していません。
カスタマージャーニーは一方通行と考えられていた時代から、顧客がネット接続された状況を反映した形へ時代とともに進化しています。5Aのカスタマージャーニーについて詳しく見ていきましょう。
5Aのカスタマージャーニーはどう変わったか
現代のカスタマージャーニーは、接続性によって生み出される変化に対応するように再定義されるようになりました。すなわちネットに接続された時代によって引き起こされる影響を反映したものとなったのです。
5Aでは顧客がネットにつながったことにより、顧客を取り巻くネット上のコミュニティやSNSの影響を強く受けるようになり、顧客の最終的な態度決定に影響を与えています。顧客の個人的に見える多くの決定が、事実上社会的な決定となっているのが5Aの世界です。5Aの新しいカスタマージャーニーは、ネットに引き起こされる影響を反映したものとなっているのです。
AWARE、APPEAL、ASK、ACT、ADVOCATEのプロセスと顧客タッチポイント
5Aのカスタマージャーニーでは顧客間の接続性を反映し、①認知(AWARE)、②訴求(APPEAL)、③調査(ASK)、④行動(ACT)、⑤推奨(ADVOCATE)というプロセスで説明されます。これらを細かく見ていきましょう。
①認知(AWARE)は、従来からのカスタマージャーニーの入口。他者から聞かされたり、ブランドの広告を見たりすることで、認知されます。
②訴求(APPEAL)は、顧客は認知したブランドの中から、自分にとって好ましいと思う少数のブランドだけに惹きつけられた状態です。
③調査(ASK)は、顧客は惹かれたブランドの中から、魅力を感じたブランドを調査します。調査段階で詳しい情報を入手したら④行動へ進んだり、購買行動を伴わない場合でも⑤推奨へ進んだりします。
④行動(ACT)は、購買行動だけではなく、消費や使用はもちろん、アフターサービスを通じたコミュニケーションも行動に含まれます。
⑤推奨(ADVOCATE)は、顧客はブランドに対する強いロイヤルティが芽生え、熱心な推奨者は大好きなブランドを自発的に他者に推奨し伝道者になる段階です。
マーケティング4.0 4Aから5Aでカスタマージャーニーはどう変わったのか?
ブランドを認知するすべての人が推奨することを目指す5Aカスタマージャーニー
従来漏斗型だったカスタマージャーニーは、5Aでは認知から推奨まで、一方通行にすぼまっていくわけではありません。
顧客がネットに接続し絶えずコミュニティやSNSより情報を得たりすることで、他者の行動に影響されてています。たとえば友人やインフルエンサーからの推奨に感化され、突発的に特定の商品を購入してしまうこともあります。つまり認知、訴求から調査というステップなしに、いきなり行動してしまうカスタマージャーニーも存在するのです。
また、製品が希少で人気の高いカテゴリーでは、実際の購入者でなくとも、ブランドを推奨する顧客が発生するのが、5Aのカスタマージャーニーです。たとえば自動車メーカーのテスラは、2019年における36万台の販売実績に対して、実に数千万人による推奨行動がとられていました。どの段階からでも顧客はカスタマージャーニーに参加できるということです。
これまでの考え方では、ロイヤルティは顧客維持率、再購入率で表されてきましたが、5Aのカスタマージャーニーでは、ロイヤルティはブランド推奨する意思として表されています。理想的なモデルの形は、①ブランドを認知しているすべての人が、自ら進んで当該ブランドを推奨する(認知=推奨)状態、そして②ブランドの訴求力がきわめて強くブランドに惹きつけられるすべての人がそれを購入する(訴求=行動)状態が理想的な5Aカスタマージャーニーであるととされています。このとき、顧客は自ら調査する必要性を感じず、調査のボリュームが最も小さくなるため、5Aカスタマージャーニーの形状は蝶ネクタイ型になります。