『コトラーのマーケティングX.0』の最新書(英語版)が2021年2月に発売されました。
トランスコスモスでは、本書の共著者であるヘルマワン・カルタジャヤ氏のWebセミナーを2020年7月に開催。新しい時代のマーケティング戦略として、「CI-EL(シエル)」というコンセプトについて語っていただきました。
『マーケティング3.0』では人間中心のマーケティング、『マーケティング4.0』ではテクノロジー時代のマーケティングについて述べていますが、『マーケティング5.0/Marketing 5.0』では、ヒューマニティのためのテクノロジーを扱っています。アフターコロナの時代を見据え、我々はテクノロジーの進化だけでは今後のマーケティングで勝っていくことは難しく、いかに人間とテクノロジーを共存させていくかが、今後の成功の鍵と見ています。
新しいコンセプト CI-EL(シエル)とは
今回は我々の新しいコンセプトであるCI-EL(シエル)をご紹介します。これはフランス語で空を意味しますが、Creativity 創造性、Innovation イノベーション、Entrepreneurship 起業家精神、Leadership リーダーシップについて組み合わせた言葉です。2021年以降はマーケティング単体、テクノロジー面だけの進化では充分ではなく、起業家精神の掛け合わせが必要になってくるでしょう。そこにおいて起業家精神の中核となるのがCI-ELというコンセプトなのです。
CI-ELはクリエイティビティ(創造性)とイノベーション(革新)で構成されます。クリエイティビティは創造的なアイデアのことで、イノベーションは解決法のことです。
将来の成長を勝ち取るには、アイデアだけでは不十分であり、起業家精神とリーダーシップが非常に重要です。なぜなら、起業家だけがアイデアと解決法に基づいた価値を創造できるからです。そしてリーダーは創造された価値を維持する役割を果たします。
競争に勝つか負けるかは、最終的にはオペレーションの実行力がものを言います。図の左上のマーケティングと、右下のファイナンスは、図の中央のオペレーションを動かすための2つの重要な要素です。マーケティングとファイナンスが変化すれば、当然にオペレーションも変化していくでしょう。
マーケティング5.0ではテクノロジーと人間性の両立が必要
しかし、ここで懸念されるのはテクノロジーを使えば使うほど人間性の要素を失うのではないかということです。ドイツから起こったインダストリー4.0すなわち第4次産業革命は、ドイツにおける政府や産業界が主導し、製造業におけるAI、IoTを活用した製造業の改革を目指した国家戦略プロジェクトですが、テクノロジーの進化だけに特化していました。
一方、日本が提唱するソサエティ5.0は仮想空間と現実空間を高度に融合させることで、経済発展と社会的課題を同時に解決するといったもので、人間のためのテクノロジーといった意味合いが強いものです。マーケティング5.0の時代では、このような技術と人間との接合が重要となってきます。
すなわち、図の上部にあるCI-EL、つまりCreative Ideas=アイデア、Innovative Solution=解決法、Entrepreneurial Value=価値、Leadership Values=さまざまな価値だけでは足りません。図の下部にある伝統的なPI-PM、つまりProductive Capital=資本、Improved Margin=利益、Professional Monetization=収益化、Managed Result=結果との組み合わせが重要です。より高く効率的に生産性を上げるにはクリエイティブにならなくてはなりません。よりよい経営管理のためにリーダーシップが必要といった具合です。
マーケティングとファイナンスを統合することにより、貸借対照表や損益計算書でよい結果をもたらすでしょう。損益計算書は過去のこと、貸借対照表は今現在の状況を示します。そしてよりよい将来に向けて、キャッシュフローを向上させていきましょう。
OMNI-HOUSEとは
ここまでの話を整理していきましょう。私はこれらをOMNI-HOUSE(オムニハウス)と呼ぶことにしました。オムニはオンライン、オフラインというだけの意味ではなく、CI-ELとPI-PMの逆説的なアイデアをどのように統合するかという意味を含んでいます。
- 生産的な資金のためのクリエイティブなアイデア C for P
- 利益増のための革新的な解決法 I for I
- プロフェッショナルなマネタイズのための起業家価値 E for P
- 経営管理の結果を出すためのリーダーシップの価値 L for M
CI-ELはPI-PMにつながっています。コロナ後の世界で生き残りたいすべての企業は、オムニハウスになっていかねばなりません。オンライン、オフラインだけでなく、CI-EL、PI-PMといったパラドックスの概念を統合するのです。つまり、マーケティング5.0の時代を生き抜いていくには、我々は相対する概念を統合し自身に腹落ちさせていく必要があるということです。我々は相対する概念を兼ね備えたオムニヒューマンとなると言ってもよいでしょう。
CI-EL 第2回では、「マーケティング5.0を実現するための人間性・クリエイティビティ」についてご紹介します。引き続きご覧ください。
ヘルマワン・カルタジャヤ|Hermawan Kartajaya
MarkPlus 創業者兼CEO
インドネシアを中心に、アジアで経営コンサルティングを行っているマークプラスの創業者。アジア・マーケティング連盟名誉フェロー。英国マーケティング研究所から「マーケティングの未来を形づくった50人のリーダー」の一人として紹介されている。『ASEANマーケティング:成功企業の地域戦略とグローバル価値創造』(マグロウヒル・エデュケーション)、『コトラーのマーケティング4.0:スマートフォン時代の究極法則』(朝日新聞出版,P・コトラー、イワン・セティアワンと共著)など共著多数。
- 新コンセプトCI-EL 第1回 CI-ELとオムニハウスとは 本記事
- 新コンセプトCI-EL 第2回 クリエイティビティとはなにか
- 新コンセプトCI-EL 第3回 クリエイティブとイノベーティブの事例紹介
- 新コンセプトCI-EL 第4回 起業家とリーダーの事例紹介
- 新コンセプトCI-EL 第5回 マーケティング5.0時代のリーダーシップ