『マーケティング5.0』新コンセプトCI-EL 第5回 マーケティング5.0時代のリーダーシップ

インタビュー

「CI-EL(シエル)」という新しいコンセプトを解説していくシリーズ第3回。コトラーの『マーケティングX.0』シリーズの共著者であるヘルマワン・カルタジャヤ氏をお招きし、新しい起業家精神の概念である「CI-EL」について解説していきます。『マーケティング5.0』では、ヒューマニティのためのテクノロジーを扱っています。アフターコロナの時代を見据え、我々はテクノロジーの進化だけでは今後のマーケティングで勝っていくことは難しく、いかに人間とテクノロジーを共存させていくかが、今後の成功の鍵と見ています。今回は最終回です。起業家と現場プロフェッショナルとの違いを確認し、CI-ELの観点からマーケティング5.0時代に必要なリーダーシップについて解説していきます。

起業家とプロフェッショナルの違い

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起業家とプロフェッショナルの違いは、起業家は機会を探求する人であり、プロフェッショナルは既存事業を安定的に運用する人です。機会は脅威を伴います。この2つを目の当たりにしたとき、プロフェッショナルは常に脅威に目を向けます。一方で、起業家は機会の方に注目します。プロフェショナルはリスクを回避し、機会があるにも関わらず、リスクを取りたがらないです。ですから、プロフェッショナルからはクリエイティブなアイデアは生まれません。

起業家は従業員のリーダーです。部下は我々に指示を出してくださいと言います。日本企業のボトムアップ型経営システムはうまくいっています。ボトムアップ、トップダウンのバランスが取ることがポイントですが、トップダウンのアプローチだけを使うとスタッフは待ちの姿勢になってしまいます。「なにか革新的なことをしてください。私も改善します。現場はプロフェッショナルとして指示に従います」となってしまうわけです。

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起業家は誰とでもネットワークを築けます。協力者とネットワークを持ちます。プロフェッショナルの人たちは、すべて自分でやろうとします。自分がベストであると考えるからです。起業家は自分がベストであるなどとは決して考えませんから、誰かしらと提携したいのです。スタートアップからはじまったFacebook、Googleなどの企業は他社と提携したり、小企業を買収したりします。なぜなら小企業はイノベーションに長けていることが多いからです。企業規模が大きくなるほど一般的にはイノベーションのスピードが遅くなります。

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企業規模が小さいほど、CI-ELはうまくいきます。企業が巨大化すると経営やシステム上の問題があり、PI-PMの方がうまくいきます。しかし今日のウィズコロナ、今後訪れるでろうアフターコロナの時代においてはPI-PMだけでは充分ではないと考えます。これからの時代においては、PI-PMとCI-ELを統合しなければなりません。PI-PMが不要ということではなくPI-PMは企業活動を安定させるためには必要であると考えています。起業家はいるのに、プロフェッショナルがいないというのは間違っています。なぜなら、実際の仕事をするのはプロフェッショナル達だからです。つまり、企業の中に起業家がいてプロフェッショナルもいるのです。

プロフェッショナルを教育し、その人が起業家精神を備えることができれば、そのプロフェッショナルが企業を大いに助けてくれるでしょう。私はこれを、起業家的プロフェッショナルと呼んでいます。彼らがさらに成長すれば革新的な非常に生産的なプロフェッショナルとして頭角を現すでしょう。クリエイティブであればさらによく彼らはクリエイティブなプロデューサーとなります。しかし、スタッフ全員にCI-ELを実行するように強いることはできません。なぜなら、スタッフの中にはCI-ELが得意だけれどPI-PMができない人、あるいはPI-PMが得意な人もいるわけです。ですからCI-EL、PI-PMを人的観点からも統合させていく必要があります。

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バランス・スコアカードを見ていきましょう。組織的要素はマーティング要素をサポートし、マーケティング要素は財務活動的要素を支える構造です。組織観点からは機会を探求する人、リスクを取る人、ネットワークのコラボレーターが私がPDBの部分で述べた3つのI、Identity(アイデンティティ)、Integrity(インテグリティ)、Image(イメージ)を生み出します。マーケティング観点からは顧客、商品、ブランドにおいてPDB、すなわちPositioning (ポジショニング)、Differentiation(差別化)、Brand(ブランド)によって差別化していきます。つまり起業家精神、起業家価値は新たなアイデンティティを生み出し、他社との差別化を経て財務面へつながり、キャッシュフローを生み出していくわけです。キャッシュフローとは、オペレーション、財務活動、投資をあわせたものです。これが組織的要素、マーケティング要素、財務活動的要素を統合した状態です。

マーケティング5.0時代のリーダーシップとは

これまでの解説で、クリエイティビティとイノベーションの違いについて説明してきました。クリエイティビティは、単なるアイデアです。イノベーションはその解決法です。しかし、起業家というのは価値を創出し、リーダーというのはさまざまな価値を創出するのです。

すべての起業家がリーダーになるわけではありません。同様にすべてのリーダーが起業家というわけではありませんが、企業には指揮するリーダー、つまりCEOが必要です。マーク・ザッカ―バーク氏はシェリル・サンドバーグ氏をFacebookの現CEOに迎えました。Googleもそうです。CEOというのは、リーダー色が強いものです。企業が大きくなればリーダーが必要です。リーダー型マネージャーが必要なのです。クリエイティブなプロデューサー、革新的な改善推進者、起業家的プロフェッショナル、そしてリーダー型マネージャーです。リーダーとマネージャーは別でも構いませんし、一緒でも構いません。マネージャーの中にはリーダーとしての資質を持っている人もいます。

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私の9つの要素モデルを見てみましょう。コトラー教授と共に書いたセグメンテーション(S)とターゲティング・ポジショニング(TP)は、カスタマー管理のことです。カスタマー管理は図の左上の部分です。これをSTPといっています。そして、商品管理は右上、まず差別化からはじまり、商品、価格、流通とプロモーション、つまりマーケティング・ミックス(M)を設定し商品を販売(S)します。下部のブランド管理は顧客管理、商品管理、ブランドの管理をします。マーケティングは、顧客、商品、ブランドから構成されています。
図の中央の企業の価値はあらゆる価値と合体しており、リーダーシップも価値に関連します。どのように起業家の創造したものを実現させるのか、過去、現在、未来において考えます。本物のリーダーは過去の話だけ、企業の歴史についてのみ語るのではなく、過去は過去として捉え、現在とコロナ後の将来についても考えます。

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リーダーシップのバランススコアカードを見てみましょう。下段の組織観点を見ていきます。リーダーシップの価値は、PQ、IQ、EQ、SQです。身体的指数、知能指数、感情指数、そしてSQは道徳心のことです。多くの人はIQだけを話題にしますが、感情指数や道徳心を表すSQも大切ですし、PQ(身体的指数)もとても重要です。健康でなければリーダーは務まりません。健康的な外見でないと部下は混乱します。今のコロナ禍の中でリーダーが健康そうに見えないと部下は不安になるでしょう。

IQ面では、コロナ禍においては学び続けなければならない状態です。EQ面では、感情をコントロールし外交的に世界中の人々とコミュニケーションを行い、ネットワークを拡げていく必要があります。人種、国籍、宗教などに関係なく、私たちは自分の感情をコントロールし感情を安定させねばなりません。それがリーダーの起業家精神です。

中段のマーケティング観点ではS-Tとはセグメンテーションターゲティングです。D-Mはマーケティングミックスにおける区別・差別化のことです。S-Pは充分なプロセス、過去の個人的価値を示しています。そして忘れないでいただきたいのは、リーダーシップはすべてを統合し上段の貸借対照表、損益計算書、キャッシュフローへつながり市場価値を生み出さなければならないのです。

CI-ELについてご紹介してきましたが、創造的なアイデアは単なるアイデアではとどまらず、問題解決に結びつく必要があります。マーケティング5.0の時代、アフターコロナの時代においてはテクノロジーの進化だけでは今後マーケティングで勝っていくことは難しいと想像されます。いかに人間とテクノロジーを共存させていくかが重要ですが、それだけでは充分ではなく、起業家精神との掛け合わせが必要になっているのです。CI-ELというコンセプトを活用いただき、ウィズコロナ、アフターコロナの時代を勝ち抜いていきましょう。

ヘルマワン・カルタジャヤ|Hermawan Kartajaya
MarkPlus 創業者兼CEO

インドネシアを中心に、アジアで経営コンサルティングを行っているマークプラスの創業者。アジア・マーケティング連盟名誉フェロー。英国マーケティング研究所から「マーケティングの未来を形づくった50人のリーダー」の一人として紹介されている。『ASEANマーケティング:成功企業の地域戦略とグローバル価値創造』(マグロウヒル・エデュケーション)、『コトラーのマーケティング4.0:スマートフォン時代の究極法則』(朝日新聞出版,P・コトラー、イワン・セティアワンと共著)など共著多数。

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