マーケティングとは何でしょうか。これは哲学的な問いです。日本マーケティング協会では「マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である。」と定義しています。
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マーケティングの定義とは
私はマーケティングを説明する際には、いつも近江商人の考え方といわれる「三方よし」をマーケティングの定義としてお話ししています。つまり、「買い手よし、売り手よし、世間よし」ですが、これがマーケティングの概念に間違いありません。基本的な考え方としてマーケティングは価値の交換であり、貨幣による経済活動です。企業と顧客は価値の交換をしているのです。この考え方が非常に重要になります。
たとえばメーカーが50円の原材料を仕入れて50円で加工して販売するとします。顧客が500円払ってでもほしいと思うものをつくれれば、400円で販売できるでしょう。400円で売れれば、原価は100円ですからメーカーは300円儲かります。顧客は500円の価値があるものに対して400円しか払っていません。これが価値の交換です。お互いに余剰が出ている、つまりお互いが得をしている価値の交換です。顧客の余剰をコンシューマーズサープラス、生産者の余剰をマニュファクチュアーズサープラスといいます。
さらにマーケティングで重要なのは、貨幣による経済活動である点です。貨幣を伴わないものは通常マーケティングには入ってきません。例外はありますが、たとえばボランティアや地域福祉などは一般的にはマーケティングには入りません。ノンプロフィットマーケティングという分野があり、これはそういった分野を対象としますが、人々の幸せの程度なども貨幣の単位に換算して考えます。このようにマーケティングは基本的に貨幣の価値で考えていくものですので、物々交換はマーケティングの対象にはなりません。
マーケティングの本質は変わらない
この価値の交換という活動を、効率的かつ円滑に行うための「プロセスと機能」を管理するための方法論がマーケティングなのです。マーケティングの本質的な部分は、古今東西で何も変わっていません。しかし技術革新などにより手法や指標は変化してきており、これから先も変わり続けていくでしょう。
たとえば誰もがスマートフォンを持ち常にオンライン状態となったことで、SNSやクチコミサイトが普及し、企業と顧客の接点は爆発的に増えました。また、かつて小売店中心だった販売ルートはその後には量販店中心に、そして現在ではEC中心となっています。
情報の流れ自体も大きく変化しています。かつて企業が画一的かつ一方的に顧客に提供していた情報は、現在はSNSなどを通じて顧客の中で乱反射するようになりました。そのため企業が情報をコントロールすることは不可能になっています。
AIの進歩により今後さまざまな業界でパーソナライズやレコメンドがますます進んでいくでしょう。私は洋服屋さんにはそのうち既成のサイズはなくなり、すべての洋服は各々の体型に合わせてつくられるのではないかと思っています。
マーテック MarTechとは
MarTechも忘れてはいけません。MarTechはコトラーも『マーケティング5.0』で使っていますが、マーケティング Marketing と 技術 Technology を掛け合わせた造語で、企業がマーケティング活動にAIやロボットなどを取り入れることで高速かつ効果的な活動を行えるようにするものです。アメリカで使われ始めましたが、今後世界で注目を集めるのではないかと思います。
H2Hマーケティングとは
H2Hマーケティングも重要です。Human to Human Marketingは企業と顧客が双方人格をもって共感するという考え方です。サステナビリティなどの社会的問題に取り組み、マーケティングの人間的な側面を強調していくことは今後ますます重要になるでしょう。
ブランドアクティビズムとは
これに関連して、Brand Activismもおさえておくべき概念です。activismは活動家ですが、正義マーケティング、つまりマーケティングに正義感が問われるようになっているということです。若い世代が高い倫理観を持っていることは世界中でみられる傾向であり、マーケティングにおいても注目すべきトピックスです。環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんが話題になったことは記憶に新しいですが、サスティナビリティや多様性、平等など、Z世代にみられる高い倫理感を重視したマーケティングを考えていかなければなりません。
最後に最近のマーケティングの変化についてまとめますので、ぜひこれをヒントとしてこれからのマーケティングを考えてみましょう。
マーケティング目標は顧客満足度からロイヤルティへ
まず大きく変化したのは目標です。これまでのマーケティングでは顧客の満足度=CSが何よりも大切な指標とされており、これを高めることが目標でしたが、現在は、ロイヤルティ(共感)の創造へと変化しています。
CSはお金を払って顧客に商品を買ってもらって満足させることです。ロイヤルティはそれとは異なり、本当にその商品のファンになってもらうことです。そしてこれを実現するための方法論も4PのプロモーションからCXへと変化しています。かつてはマス広告が主流でしたが、現在はデジタル、店頭での体験、そしてSNSやブログなどと多様化しています。無限にある顧客と企業との接点ひとつひとつの質を向上させていくこと=CXの向上にシフトしているのです。
福島常浩が御社のマーケティングをディレクションいたします
トランスコスモスでは、フィリップ・コトラーの提唱する5Aコンセプトに沿ってマーケティング戦略提案をいたします。実際のご提案に際しては、当記事の解説者である福島常浩がデジタル時代に最適化したロイヤルティマーケティングをサポート。まずは御社のお悩みをお聞かせください。
トランスコスモス株式会社 上席常務執行役員
公益社団法人日本マーケティング協会 理事
福島常浩
東京工業大学大学院修了後、味の素株式会社に入社。その後、GE Capital、三菱商事、ぐるなび、メディカルデータビジョンを経て、ビッグデータ事業、マーケティング責任者等を歴任。専門分野は、新事業・新製品開発、ブランド論、医療ビジネス、ロイヤルティマーケティング。トランスコスモスではマーケティング関連の事業開発を担当し、書籍 『コトラーのマーケティング4.0』 で紹介された5A診断を日本で独占的に提供している。