市場の成熟と製品のコモディティ化により、顧客は基本的欲求よりも、より高いレベルの欲求を満たそうとするようになっています。彼らの関心は貧困や環境破壊などの社会的課題に向くようになり、製品を選ぶ際には、それらの課題に対する企業の考え方や取り組みに共感できるかどうかを大きな判断基準にしています。こうした変化は企業のチャネルの選び方や使い方にもさまざまな影響を与えています。多くの社会的課題は自社のみで解決できるものではないため、これまで以上に適切なパートナーとの協働が不可欠です。今回は企業にとって、なぜチャネル・パートナーが重要なのか、どのように選定し協働していくとよいのかを考えていきたいと思います。
チャネル・パートナーとはなにか
チャネル・パートナーとは、複雑な経済主体で企業と顧客と従業員が混じり合ったような存在です。それぞれ独自のミッション・ビジョン・バリューやビジネスモデルを持つ企業であると同時に、ニーズやウォンツを持つ顧客でもあります。テクノロジーの進歩やグローバル化により企業活動が複雑化している現在、自社を取り巻くあらゆる活動をすべて自力で完遂することは難しいため、チャネル・パートナーの存在はますます重要です。チャネル・パートナーは企業にとって協働相手であり、世界に変化を生み出す活動の推進者、より大きな価値を生み出すための創造的パートナーでもあるのです。
チャネル・パートナーにはさまざまな種類がありますが、今回は①協働相手としてのチャネル・パートナー、②文化的変化の推進者としてのチャネル・パートナー、③創造的協力者としてのチャネル・パートナーの3種類について詳しく見ていきます。
①協働相手としてのチャネル・パートナー
共有価値の重要性を理解して、相性のよいパートナーを選定する
チャネル・パートナーの選定には目的、アイデンティティ、価値についての相互理解が重要です。特に価値は組織の根幹をなす信念にかかわるものであるため、しっかりと本質を見極める必要があります。自社が大切にしている価値に心から関心を持ち、共感してくれる相手でなければ、いずれ価値観のずれが露呈して良い結果にはなりません。
それを回避するために、企業はチャネル・パートナーに対して、価値をマーケティングする必要があるのです。まずはチャネル・パートナーの独自の価値を理解することからはじめましょう。協働は結婚のようなものです。お互いを理解し、ウィンーウィンの交渉を行い、横の関係に基づいた公平な契約を交わすこと。本質的な価値観を共有して信頼し合い、長期的に同じ方向を目指すことが不可欠なのです。
②文化的変化の推進者としてのチャネル・パートナー
ストーリーを広めて、企業の価値をマーケティングする
自社の提供する価値が、いかにすばらしいものであっても、それがターゲットとする顧客に伝わらなければ意味がありません。顧客にダイレクトにアプローチできればよいのですが、実際には、企業と顧客の間には仲介者が存在している場合が多く、仮にSNSなどで顧客とつながることはできても、流通面ではチャネル・パートナーに依存せざるを得ないケースが多いのではないでしょうか。したがって自社の価値をマーケティングしてくれるチャネル・パートナーを見つけ、彼らにブランド・ストーリーを広めてもらうことが企業にとって重要になります。
たとえば環境に配慮するという価値を持つ企業の場合、自社の価値を守り続けるために、持続可能な素材の使用や環境に配慮した生産活動に共感し、支持してくれる供給業者とのパートナーシップが欠かせません。顧客に製品を販売することだけではなく、グリーンな製品を選ぶことの利点を啓蒙することも彼らの役目であるため、根本的な価値を共感し合える企業でなければチャネル・パートナーとしてふさわしくないのです。
③創造的協力者としてのチャネル・パートナー
リレーションシップを大切にして、協力、協働する
チャネル・パートナーとの協働をうまく実現するためには、企業は彼らの立場に立って自社製品の利益貢献度などを理解し、定期的な情報共有や合同の戦略策定を行う必要があります。そのうえで、自社の製品を店に置くことが彼らの利益や満足につながるように、販促活動や店内プロモーションなどを積極的に行い、彼らのビジネスへの関心や協力姿勢を示していく必要があります。
企業はバリューチェーン(価値連鎖)の視点から、さまざまなチャネル・パートナーと協力し合い、双方に利益をもたらす機会を見つけようとし続けなければなりません。複数のチャネル・パートナーがいる場合、彼らが顧客を奪い合うことなく協働するように取り計らうことも重要です。
これからの企業にとってのチャネルの選定や管理は、共通する目的とアイデンティティを持ち、本質的な価値を共有できるチャネル・パートナーを見つけることから始まります。そして、パートナーと統合してブランド・ストーリーにインテグリティ(完全性)を持たせることで、よりよい活動を実現できるようになるのです。