マーケティングの環境がめまぐるしく変わっていることはみなさんもご存知の通りです。未来の予想がしにくいVUCA時代と言われて久しいですが、コロナ禍の影響もあってさらに持続的成長の実現が大変見通しにくくなっています。これまで人類が経験したことのないこの状況に対して、企業はどのように対応していくべきか、3つの観点からシリーズで説明していきたいと思います。
最終回は「顧客戦略」です。
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DX時代の顧客戦略
世界的なコロナ禍と、長期的な人口減少により経済が停滞する現在、顧客戦略の課題を一言で言えば、ロイヤルティマーケティングの推進ということになります。
これまでのマーケティングでは、お客様の満足度を高め、リピーターにつなげていくことが最重要でした。もちろんこれは短期的な売上げに直結し、企業経営にとっては今でも重要なことです。しかし長期的な企業の利益を支えるためには、この顧客満足以上に真の顧客ロイヤルティが重要になります。『コトラーのマーケティング4.0』でいえば、アドボケーター(推奨者)を増やすことです。
ロイヤルティの高いお客様に支えられたブランドは、コモディティには陥りませんから、安売りに頼らない販売が可能です。そのため企業としては一定の利益を確保できることになります。また一般的に高いロイヤルティは、長い期間継続することが多く、最終的なお客様の価値(LTV;ライフタイムバリュー)を増大させます。このようにロイヤルティマーケティングのコンセプトでは、お客様の数を増やさずとも売り上げや利益を増大させることが可能となるのです。
それではどのようにしたら、真のロイヤルティを高めることができるのでしょうか。ロイヤルティを考えるときに大切なことは、「見せかけのロイヤルティ」と「真のロイヤルティ」をしっかりと区別しなくてはいけません。「真のロイヤルティ」とは、心の底からそのブランドを好きだと感じ、人に勧めたりSNSで拡散したりすることです。同じブランドをずっと使っていても、それが「いつも安売りをしているから」という理由ではロイヤルティとは言えないのです。これまでのマーケティング戦略においてロイヤルティは、対象商品の継続的な購入率や、最もたくさん購入するブランドといった行動に基づく指標で測定することが多数でしたが、これでは「真のロイヤルティ」は測れません。
これからのロイヤルティは顧客の意識を直接尋ねなくてはならないかもしれません。弊社の“5A Loyalty診断”の中では、コトラー教授のオリジナル5A尺度が利用可能で、直接尋ねることになっています。
顧客接点の変化と管理
企業やブランドのロイヤルティは、購入前の広告と利用後の製品満足によってすべて作られるという考え方は、デジタル時代においては不十分です。現在では顧客のロイヤルティは、広告、SNS、ホームページ、店頭、口コミやコールセンターなど、数多くの顧客接点つまりCXによって作られます。製品に対する満足度もこのCXの一つですが、当社の調査ではこの満足度が最重要の指標ではないという結果が現れた場合もありました。この数多い顧客接点=CXを通じてロイヤルティを高めるとはどのようなことでしょうか。
顧客は何らかのCXにより刺激を受けると、心の中にパーセプション(知覚)を形成するのです。食べ物であれば、おいしそうだとか、こどもが喜びそうだとかいった、その商品のイメージを作り上げることになります。これがパーセプションです。そしていろいろなCXを経験するたびにこのパーセプションが変化していきます。おいしそうと思った商品が、使ってみたら意外と残念な味だったとすると、顧客のパーセプションが変更されたことになります。このようにCXを経るごとに変化するパーセプションを、望ましいところで固定されると、「ロイヤルティが形成された」という状態になるのです。
そのため、企業はこの数多いCXを適切にコントロールしなくてはなりません。広告は宣伝部、ホームページはシステム部、SNSはマーケティング部、店頭は営業部というサイロ化した状態では、望ましいパーセプションはおぼつかないといえるでしょう。すでに先進的な企業では、CCXO(Cief CX Officer)と言われるような役割を設置しているとも聞きます。少なくともCXに関わる統合的な戦略と、担当部門の密な連携は必要となります。
デジタル化と長期的な人口減少、そこにコロナ禍や戦争が世界同時進行する時代です。人々の行動パターンや情報の受発信方法が大きく変わっています。この人々を顧客として対峙する以上、これまでとは異なる戦略が必要となるのは当然です。企業の継続的な繁栄のためには、広告によって均一な刺激を与えて態度変容を起こし購入を促すという旧来の方法から、CXを通じて真のロイヤルティを高め長期的な利益を確保する方法へと変わっていくことは急務だと言えるでしょう。