メタバースの生活と経済圏の現状:バーチャル美少女ねむ氏、トランスコスモス福島常浩の対談 第1回(4回シリーズ)

インタビュー

トランスコスモスの福島が、最新のマーケティング事情についてゲストを招いて語らう対談。
今回は、メタバース文化エバンジェリストであるバーチャル美少女ねむ氏にお話を伺います。バーチャル美少女ねむ氏は作家としても活動されており、2023年2月にはメタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界が「ITエンジニア本大賞2023」のビジネス書部門で大賞を受賞されました。
対談ではメタバースにおけるロイヤルティマーケティングやCXをテーマに、メタバースの現状や仮想現実における企業の在り方などについて語っていただきました。また今回はファシリテーターとして、当サービスのイメージキャラクター、「護永こすも」も参加し、非常に先進的なインタビューとなりました。
インタビューは4回シリーズで掲載します。第1回目は「メタバースの生活と経済圏の現状」です。

左からトランスコスモス 福島常浩、バーチャル美少女ねむ氏、5A Loyalty Suiteイメージキャラクター 護永こすも

メタバースとは

護永こすも(以降、こすも)はじめまして!5A Loyalty Suiteのイメージキャラクターを務めさせていただいている「護永こすも」と申します。本日は、「メタバースにおけるCX、ロイヤルティマーケティング」というテーマで、バーチャル美少女ねむさんと弊社の福島常浩に対談が実現いたしました。
バーチャル美少女ねむさんといえば、『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』がベストセラーとなり、「ITエンジニア本大賞2023」ビジネス書部門において大賞受賞されました。いまやメタバースといえばねむさん!という存在になっていますね。
そんなねむさんに、まずはメタバース、またその中での生活について簡単にご説明いただきたいと思います。

バーチャル美少女ねむ公式noteより

バーチャル美少女ねむ(以降、ねむ)メタバースと聞くと、テクノロジーやメカ的なものを連想する方が多いのですが、実はプリミティブな生き物としての人間に戻れる空間だと思っています。そういう意味では、生き生きと暮らしやすい空間ですね。現在、私のようにVRゴーグルを使用してメタバース空間で日常生活を過ごしている方々は世界で数百万人いると言われています。私も含め、そういった人々のことを俗に「メタバース原住民」と呼んでいます。
私はプログラミング等をするITエンジニアではありませんが、メタバース上での住民の文化や生態に興味があって「VR国勢調査」と題して調査を行ったり、一般の方に文化を届けるための執筆活動を行ったりしています。
「メタバース」とは「超越(meta)」と「世界(universe)」を組み合わせた造語で「現実を超えた世界」という言葉が由来ですが、端的に言えば、現実を超えた世界をインターネット上に作って、そこで人生を送ることができるのがメタバースだと考えています。
今までのインターネットは、あくまで現実世界での生活を便利にするためのテクノロジーであり、現実世界の延長線上にありました。しかしメタバースは現実での生活を便利にするのではなく、メタバースこそが人生の主体になるということです。
拙著にも書かせていただいておりますが、メタバースには以下の7つの要件があると考えています。

・創造性
・自己同一性
・大規模同時接続性
・空間性
・経済性
・アクセス性
・没入性

今回は「創造性」の部分に焦点を当ててお話ししたいと思います。「創造性」は「ものづくり」の根底にもなってきますが、メタバース上では、空間にペンを走らせて形を描くだけで、描いたものが3Dモデルとして変換され、手に持ち、モノとして使う、といったことも可能です。このようなものづくり(モデリングやプログラミング等)は、メタバース上でVRゴーグルをかぶった状態で行いますが、実は私の体であるアバターやこの空間(ワールド)自体も同様の手法で作ることができてしまいます。スキル次第では、メタバース上に自分自身の世界を創造できますし、アバターや小物のようなクリエイティブを量産できるでしょう。
狭い画面の中ではなく、周りの世界全てを使ってクリエイティブな活動を行う事ができるのです。まさに天地創造を行う神様になったような感覚でしょうか。文字入力がしづらい等の解決されていない問題はまだあるものの、慣れてしまえば、非常に生産性の高い世界といえます。究極的には、全ての知的労働は現実ではなくメタバースで行われるようになると考えています。

\メタバースのイメージを体験されたい方はこちらから/
https://www.transcosmos-cotra.jp/meta

福島常浩(以降、福島)プログラミングを専門とするエンジニアではない人でも体験できるというのは非常に心強いものを感じます。ただ現状では、技術職の方が多いようですね。その点については今後、技術の進歩が解決してくれるのかなと思いました。
ねむさんはメタバース上で、エンジニアの方と協力して何かをしたいとき、やはりメタバース内で協力者を探すのでしょうか。

ねむそうですね。メタバース上ではフレンド機能というものがあり、フレンドになった人たちはFacebookのようにリスト化して表示されます。誰がオンラインなのかといった情報も閲覧可能です。それを利用することによって、友人を自分のワールドへ召喚したり、相手のところへ瞬間移動したりということが容易に行えます。メタバースの中では「移動」という概念がありません。
リストの中から協力してくれそうな人を招待して、瞬間的に私のところへきてもらうことで、その場で技術を補い合って、協力してクオリティの高い創作物を作ることできます。このようなことは現実世界では難しいですが、メタバース上では簡単にできてしまいます。

福島移動の概念がないことで、プログラミング、クリエイティブの課題はいずれも技術的に克服できるということですね。もう一つ、言語についてはどうでしょうか。メタバース上で同時翻訳の技術が用いられることによって、言語の課題、壁というものも超えていけるのかなと思っています。

ねむその通りで、既に文字ベースではありますが、同時通訳をするツールが開発されていて、言語の壁もクリアされつつあります。プラットフォームにもよりますが、そのようなツールを使用されている方は言語の壁を感じずに海外の方とコミュニケーションを楽しめる段階まで到達しています。
むしろ言語よりも、文化の壁が今後の課題となるように感じます。言語の問題が解決し、意思疎通が取れるようになればすべてが解決するということはなく、場所と言語の壁がなくなったからこそ、文化面での衝突が起こりやすい環境であるという側面も持ち合わせています。 世界中の人が当たり前に交流できる場では文化の違いがはっきりと出ます。たとえば距離感が近すぎるとか、日本人に対してはおとなしすぎるといった印象を抱かれてしまうことが多いです。グローバルな感覚を持つことが今後、メタバースを活かしていく上で大事になるのではないかと思っています。

メタバース経済圏の現状

こすも:メタバースにおける経済圏として、小規模ながらBoothでの3Dデータの販売や、Vketではアパレル企業やアニメキャラクターの3Dデータの販売が始まっていますね。ねむさんは、メタバースにおける現状の経済圏はどのような状況にあるとお考えですか?

ねむまず4年前のMeta(Oculus) Quest 2の登場は非常に革命的な出来事でした。それまではメタバース空間にVR機器を使って入るために高価なゲーミングPC、そして10万円以上するVR機器が必要となり、合計で30~40万円が必要だったのが、PCなしで3万円強(販売当時価格)でも限定的ながらVRが体験できるようになったのです。この出来事により、一般の方がメタバースへ入っていくハードルが大きく下がりました。
また、無限に空間を用意できるという点もメタバースの経済圏においては非常に有益な性質となっています。例えば、私はメタバース上で音楽ライブを開いたことがあるのですが、最高で1,200人以上の方が集まったことがあります。メタバースでは1,200人を収容する空間も簡単に無料で用意できますが、現実の世界だったらどうでしょうか。観客を収容できるライブハウスを手配することはもちろん、誘導のスタッフを何十人も用意する必要がありますよね。それがメタバース上であればすべて一人で運営することが可能になります。
こすもさんから挙がったBoothの例でいうと、人気商品の中にVRChat等で使用できるアバターがランクインしていることがあります。それはなぜかというと、メタバースを利用される方がファッションを楽しみたいと思っている方が多いからではないでしょうか。年中行事等のイベントごとを大事にするのもメタバースの風潮の一つかなと感じていて、クリスマスにも皆でサンタのコスプレをして集まりました。現実世界で日常的に出来ることではないですよね。 このように、運営面の容易さや、イベントなどに関しては市場成長の将来に期待がもてるのではないでしょうか。

こすも:私は年末年始、VRChatで年越しをしたのですが、皆さん振袖を着ていたのが非常に印象的でした。私もメタバースで年中行事の期間を過ごすことが多いのですが、盛り上がりは非常に感じますね!
とくにかわいい女の子のアバターを使っている方が多いメタバース上ではファッションを楽しみやすいですよね。
メタバースの始めてすぐの頃はアバターを使うことに抵抗を感じているユーザーも、段々とファッションを楽しむようになっていく傾向にあると私は感じています。

福島現実世界では気恥ずかしさからできなかった行動が、メタバース上ではできるということもあり、これまで気付かなかったニーズを創出することができるということですね。

ねむ皆さん、口を揃えておっしゃるのが「自分がこれほどまでにファッションを楽しむような人間だとは思っていなかった」ということです。現実ではさまざまな制約から楽しめなかった潜在的な欲求、ファッションを楽しむような感覚がメタバース上では生まれやすいのかもしれません。
私は何種類かアバターを使い分けていますが、依頼すればアバターを作ってくださるモデラーの方々が増えてきていますので、今後、このアバター経済というのは拡大していくのではと思っています。

福島ねむさんの著書に書かれている「分人経済(最小単位が「個人」から「分人」に移行した経済)」という言葉が非常に印象的でした。物理現実というのは、自分の容姿や名前、周りの環境を受け入れるものでしたが、メタバース上では、受け入れるものからデザインするものへと移り変わっていくということですね。そして、デザインされるものすべてが経済に影響してくるということになります。とても大きなポテンシャルですし、同時に、人間の内面にも変化が生じてくるかもしれません。
実際に中東では、メタバースに熱中する方が増えているそうです。
宗教の問題でファッションが楽しめなかった人たちが、メタバース上で自由にファッションを楽しみ、自己実現しているという話を耳にしました。
ただ、従来のマーケットでは見えていないニーズも多いので、今後、メタバースの利用人口がどの程度増加していくのかがカギになる部分です。
ニーズというのは経済そのものです。ニーズを満たすためにはお金が動くことが多いですから、今後、メタバース上で非常に大きな経済圏ができていくということは十分あり得ます。その入り口がメタバースの中で使われるアバターや小物になるということですね。
加えて、メタバースの利用人口や利用時間が増えれば、ねむさんが著書で書かれていたように、マス広告という形で現れるでしょう。たとえばメタバース上の渋谷を歩いていて目に留まった広告を触ると、その場で商品の説明を聞けたり、購入することができたり、そして購入した商品がメタバース上もしくは物理現実に届く。将来的には、そういったことが当たり前になるかもしれません。

ねむはい。現状、メタバース上ではまだ「経済」といえるほどの経規模はありませんが、私も、今後、メタバース上の経済圏というのはそのように成長していくのではないかと考えています。
Vket(バーチャルマーケット)でメタバース上にバーチャル秋葉原というワールドがあったのですが、その秋葉原では駅前にエヴァンゲリヲンを立たせました。
実際に見に行きましたが、その前を通る人たちがほぼ全員写真を撮っていました。見た目のインパクトもすごいし、そこでしか見られないものなので、注目度は高かったです。現実でいうお台場のガンダムのような感じでしょうか。
当然ですが、現実世界で実際にガンダムを作るよりも、3D空間で作ったほうが簡単ですよね。
現状、インターネット広告のコンバージョン率は0.数パーセント程度かと思いますが、バーチャル秋葉原のエヴァンゲリヲンを1時間ほど見ていたところ、驚くべきことにほとんどの人が立ち止まって写真を撮っていました。つまり、コンバージョンはほぼ100%だったということです。さらに撮影した人たちはTwitterに写真をあげたり、友人に話したりして何らかの形でリアクションを取っていました。
現実世界では作れないような存在感のある広告が作れるというのはメタバース上で広告を作るうえで大きな要素になると感じています。
単純にキャッチコピーや写真を貼り付けるだけではない、ユーザーの期待を超える体験や導線設計がされた広告をつくることができるので、広告デザイナーの仕事もそのような面を考慮しなければならない仕事に変わっていくでしょう。

福島CX(カスタマーエクスペリエンス)は、今後のマーケティングにおいても非常に重要な考え方です。
これまでのマーケティングというのは、広告を露出して、好きになっていただき、買っていただくということが目的でした。しかしこれからのマーケティングは広告だけではない、さまざまな接点を通じてお客様に感動や喜びを提供しつつ、関係をつくることが大切になってきています。
その点でメタバースは新たな価値を提供できる場として、CXの質を高めることのできる、向いている空間だなと思います。

ねむそうですね。従来のWeb広告とは異なり、驚きを与える、まるでジェットコースターに乗ったような体験など、広告だけで感動させるような体験を提供することも可能になっていくと思うので、CX向上への応用価値は非常に高いですね。


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\メタバースのイメージを体験されたい方はこちらから/
https://www.transcosmos-cotra.jp/meta

対談者プロフィール

メタバース文化エバンジェリスト・バーチャルYouTuber
バーチャル美少女ねむ
メタバース原住民にしてメタバース文化エバンジェリスト。「バーチャルでなりたい自分になる」をテーマに2017年から美少女アイドルとして活動している自称・世界最古の個人系VTuber(バーチャルYouTuber)。VTuberを始める方法をいち早く公開し、その後のブームに貢献。2020年にはNHKのテレビ番組に出演し、お茶の間に「バ美肉(バーチャル美少女受肉)」の衝撃を届けた。ボイスチェンジャーの利用を公言しているにも関わらずオリジナル曲『ココロコスプレ』で歌手デビュー。作家としても活動し、著書に小説『仮想美少女シンギュラリティ』、メタバース解説本『メタバース進化論(技術評論社)』がある。フランス日刊紙「リベラシオン」・朝日新聞・日本経済新聞などインタビュー掲載歴多数。VRの未来を届けるHTC公式の初代「VIVEアンバサダー」にも任命されている。
2022年は文化庁や総務省にもメタバースに関する情報提供やアドバイスを行っており、東京大学で講義したり、各種学術イベントでも講演活動を行った。テレビ番組や雑誌、国際ドキュメンタリーにもゲスト出演多数。 アバター文化への貢献が認められ、キズナアイ以来史上二人めとなる一般社団法人VRMコンソーシアム「アバターアワード2022 特別功労賞」受賞。「MoguLive VTuberアワード2022」では「今年最も輝いたVTuber “7位”」に選出された。
2023年には『メタバース進化論』で「ITエンジニア本大賞2023」ビジネス書部門”大賞”を受賞し、VTuber初の大賞作家となった。
(バーチャル美少女ねむ公式プロフィールより引用)

note: https://note.com/nemchan_nel
Twitter: https://twitter.com/nemchan_nel

トランスコスモス株式会社 上席常務執行役員
福島常浩

1982年に東京工業大学大学院を修了。味の素株式会社にて多変量解析を用いた市場定義モデルの開発、マーケティング部門において家庭用新製品開発及び新事業開発のマーケティング責任者、コンビニエンスチェーンとの大型製販同盟の事業を担当。 その後、GE Capital、三菱商事、ぐるなび、メディカルデータビジョンを経て、ビッグデータ事業、デジタルマーケティング責任者等を歴任。日本マーケティング協会公認マーケティングマイスター、一般社団法人市場創造学会代表理事・事務局長に携わる傍ら同志社大学で教鞭も取っている。2023年現在、トランスコスモス株式会社 上席常務執行役員としてマーケティング関連の事業開発を担当。

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