トランスコスモスの福島が、最新のマーケティング事情についてゲストを招いて語らう対談。
今回は、メタバース文化エバンジェリストであるバーチャル美少女ねむ氏にお話を伺います。バーチャル美少女ねむ氏は作家としても活動されており、2023年2月には『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』が「ITエンジニア本大賞2023」のビジネス書部門で大賞を受賞されました。
対談ではメタバースにおけるロイヤルティマーケティングやCXをテーマに、メタバースの現状や仮想現実における企業の在り方などについて語っていただきました。また今回はファシリテーターとして、当サービスのイメージキャラクター、「護永こすも」も参加し、非常に先進的なインタビューとなりました。
第2回目は「メタバース上でのCX戦略」です。
メタバース上でのCX戦略
護永こすも(以降、こすも):引き続きメタバースにおけるCX、ロイヤルティマーケティングについて対談をしていただきますが、メタバース上でのCX戦略というのは現実世界とどのような違いや強みがあるのでしょうか。
福島常浩(以降、福島):現実世界とメタバースをCX向上という観点で比較してみると、現実世界ではスーパーマーケットで商品をみてまわって楽しいことはあるかもしれませんが、感動という体験は意外と少ないかもしれません。メタバース上では、例えば大根を買おうとしたときに畑に飛んでいって、自分の好きな大根を収穫して、さらに畑で生産者と話をしたうえで購入できるとか、そんなことができたらすごく面白いなと思います。
私は食品業界に長く携わってきましたが、商品開発の際にその商品について消費者に伝えたいことが山ほどあったのですが、伝える機会がありませんでした。メタバースであれば、直接伝える機会をつくることが容易になるかもしれません。
このようなことが実現できる世の中になったら売り場やマーケティングは全く違うものになりますね。
バーチャル美少女ねむ(以降、ねむ):いわゆるD2C(Direct to Consumer/Customer)ですね。私も同じような試みをしたことがあります。メタバース上に本屋さんを作って仮想空間の中で拙著『メタバース進化論』のページをペラペラとめくって実際の本のように自由に立ち読みできるようにしました。その結果、多くの方が立ち読みをしにその本屋さんを訪れてくださったのですが、そこで終わりではなくて、立ち読みしているお客様の肩をトントンと叩いて、著者である私自身が本について説明をしたんです。著者がそこにいるという状況を作れるわけですね。みなさんびっくりしていました。さらに、その場で私が音楽ライブをしたりして、物理現実では難しいようなアピールが可能にもなりました。
現実世界ではいろいろな危険がともなうリスクがあるので、作家やアイドルという職業は、なかなかファンの方と交流することが難しいです。メタバースの世界には物理的な暴力というものがないので、安全性を担保した上で親密なコミュニケーションを行うことができます。 先ほど、福島さんは大根の販売の例を出していらっしゃいましたが、何でもその方法で売ることができます。D2Cという言い方でも良いですが、もっと泥臭い言い方をすれば、新しい形の叩き売り(※ここでいう叩き売りとは、見切り品などを激安で売り飛ばすという意味ではなく、生産者と生活者が気軽に肩を叩きあって話しながら楽しむ新しい購入スタイルのこと)のような、そんな販売スタイルが可能になりますね。
福島:叩き売りに新しい定義が加わってしまいましたね(笑)
本当にそう思います。CX戦略ではD2Cは非常に重要な手法です。メタバースが出てくる前、インターネットが登場したとき、私はインターネットが時間と空間を越えてしまうと感じました。地球の裏側にいる人にもすぐに会えたり、情報の受発信ができたりする。それを形にしてくれたのがメタバースであると、今になって思いました。
物を買うのにお店に行かなくてはいけないという常識はインターネットによって破壊されましたが、メタバースではさらに、インターネットでは難しかったD2Cができる、という次のステージへ進むのもそう遠くない未来だと思います。物理現実の呪縛から解放されるといってもいいかもしれません。
また、先ほど「分人経済」の話がでましたね。現実での私は今、スーツを着て地声をお話していますが、メタバース上で名前を付けてアバターに着替えて声を変えれば、別の存在として、新しく経済活動をすることができます。
「分人経済」の中では、女性の服だったり和服だったり、いろいろなことを楽しむことができます。さきほどもアバター経済の拡大というお話がありましたが、そこには経済行動が伴ってくるでしょう。
Meta社のマーク・ザッカーバーグが言うように、メタバース上に非常に大きな市場が形成され、大きな可能性を秘めていることになります。今はそれをどのようにイメージして先を見据えるかという点が課題、勝負どころになっていると思います。
ねむ:福島さんがメタバース上では、どのような自分でありたいと思っていますか?
福島:非常に悩みますが…、やはり男性でしょうね。ただ、実年齢より若くなりたいと思っています。あとできればかっこよくありたいです(笑)
ねむ:そうなんですね。若くなりたいとおっしゃいましたが、年齢というのは大きなファクターであると考えています。現実世界では性別が変わることはあまりないのでセンセーショナルに扱われがちですが、実はそれ以上に年齢が変化することのインパクトが大きいのかなと思っています。
現実世界では年代、ジェネレーションというものがありますよね。自分と異なる年代の方と仲良くなれないわけではないですが、やはりジェネレーションギャップを感じてしまうことは多々あるかと思います。そのギャップによって人間関係がマイナスに働いてしまうこともあるかもしれません。
ところが、メタバースでは仲良く接している相手の年齢も、性別もわからないことが当たり前にあります。結果として、自分と大きく年齢が離れていても、そのことに気付かずに仲良くなっているので、年齢の偏見や壁もなくなっていきます。
現実世界ではジェネレーションギャップは当然のことで、あまり意識することすらできていませんでしたが、メタバース上で生活することで、私たちは年齢に基づく固定観念にも捕らわれて生きているんだなということに改めて気付きました。
メタバース上で、ジェネレーションを破壊することによって、今まで分断されていた市場を、一つの大きな市場へと変えることも可能かもしれないなと、最近は考えています。
福島:「分断」という言葉を使われましたが、確かにそれはあるかもしれません。メタバースでは自分の年代も自身でデザインできます。
肉体的に年齢を重ねていても発想は若い人がいるように、その逆も然りです。自分で年齢をデザインして、自分のキャラクターを設定することによって、自分の価値観に対して一番自然な年齢でいることができればよいと思います。それは年齢によって分断されていた経済が一つになるということにもなり得ますよね。
ねむ:はい。市場における世代の壁がなくなるという点は、メタバースのもっとも革命的なことのひとつではないかと思っています。
福島:現実世界の外見という与えられたものに従っていくのではなく、自分がデザインした世界で、新しいエクスペリエンスを積んでいくと。体験の対象が商品やブランドだったりすれば、マーケティングの対象になるでしょう。そういった対象を今後どのようにつくっていくのか、メタバースの中で生活する人たちに向けてどんなエクスペリエンスを提供できるかといったことが、我々マーケターとして、大きな宿題になると思います。
メタバースの中における価値については、2種類に分けられると思っています。
ひとつは物理現実のものがメタバースの中に持ち込まれて経済的な価値を持つこと、もうひとつはメタバースならではの活動に対して経済的な価値が出てくること。物理現実が関わるものと関わらないもの、それぞれの経済圏があると思うのですが、ねむさんの中で、この先に有望な領域のイメージがあればぜひお伺いしたいです。
ねむ:Vket(バーチャルマーケット)では意外と現実世界、物理現実で使われるものが販売されています。それをメタバース上のショッピングモールで買う体験というのは、実は今までのオンラインコマースとそこまで変わらないです。現状ではメタバースになったからといってその場でリアルの食べ物を食べられるわけでも、匂いを感じられるわけでもないので、現実世界の商品やサービスを売ることにおいて大きな変化はないのかもしれません。違いがあるとすれば、先ほど言及したD2Cという観点だと思います。
生産者と消費者が直接つながることができるというのがメタバースにおける最大の価値だと思うので、同じものを買うとしても、Eコマースでの購入体験というのは、現実世界でお店に行ってものを買う体験と比べると、「ただクリックするだけ」といった物足りないものになりがちです。一方で、メタバースでは、お店で店員さんに直接商品の魅力を語ってもらったり、実際に商品を作った人と会話ができたりします。コミケ(コミックマーケット)のような感じですね。 このように体験自体を売ることを可能にしているのが、今までのオンラインコマースとの最大の違いかなと思います。
福島:ねむさんが今「体験自体を売る」とおっしゃいましたが、我々はそのCX、体験が重要だということを主張しています。体験自体を売るということは、メタバース自体がCXそのものとも言えるのかもしれないですね。
バーチャル美少女ねむ氏、トランスコスモス福島常浩の対談 第1回:メタバースの生活と経済圏の現状
バーチャル美少女ねむ氏、トランスコスモス福島常浩の対談 第2回:メタバース上でのCX戦略
バーチャル美少女ねむ氏、トランスコスモス福島常浩の対談 第3回:メタバースにおけるビジネス活動
バーチャル美少女ねむ氏、トランスコスモス福島常浩の対談 第4回:メタバースの今後の展望と理想的な企業活動
対談者プロフィール
メタバース文化エバンジェリスト・バーチャルYouTuber
バーチャル美少女ねむ
メタバース原住民にしてメタバース文化エバンジェリスト。「バーチャルでなりたい自分になる」をテーマに2017年から美少女アイドルとして活動している自称・世界最古の個人系VTuber(バーチャルYouTuber)。VTuberを始める方法をいち早く公開し、その後のブームに貢献。2020年にはNHKのテレビ番組に出演し、お茶の間に「バ美肉(バーチャル美少女受肉)」の衝撃を届けた。ボイスチェンジャーの利用を公言しているにも関わらずオリジナル曲『ココロコスプレ』で歌手デビュー。作家としても活動し、著書に小説『仮想美少女シンギュラリティ』、メタバース解説本『メタバース進化論(技術評論社)』がある。フランス日刊紙「リベラシオン」・朝日新聞・日本経済新聞などインタビュー掲載歴多数。VRの未来を届けるHTC公式の初代「VIVEアンバサダー」にも任命されている。
2022年は文化庁や総務省にもメタバースに関する情報提供やアドバイスを行っており、東京大学で講義したり、各種学術イベントでも講演活動を行った。テレビ番組や雑誌、国際ドキュメンタリーにもゲスト出演多数。 アバター文化への貢献が認められ、キズナアイ以来史上二人めとなる一般社団法人VRMコンソーシアム「アバターアワード2022 特別功労賞」受賞。「MoguLive VTuberアワード2022」では「今年最も輝いたVTuber “7位”」に選出された。
2023年には『メタバース進化論』で「ITエンジニア本大賞2023」ビジネス書部門”大賞”を受賞し、VTuber初の大賞作家となった。
(バーチャル美少女ねむ公式プロフィールより引用)
note: https://note.com/nemchan_nel
Twitter: https://twitter.com/nemchan_nel
トランスコスモス株式会社 上席常務執行役員
福島常浩
1982年に東京工業大学大学院を修了。味の素株式会社にて多変量解析を用いた市場定義モデルの開発、マーケティング部門において家庭用新製品開発及び新事業開発のマーケティング責任者、コンビニエンスチェーンとの大型製販同盟の事業を担当。 その後、GE Capital、三菱商事、ぐるなび、メディカルデータビジョンを経て、ビッグデータ事業、デジタルマーケティング責任者等を歴任。日本マーケティング協会公認マーケティングマイスター、一般社団法人市場創造学会代表理事・事務局長に携わる傍ら同志社大学で教鞭も取っている。2023年現在、トランスコスモス株式会社 上席常務執行役員としてマーケティング関連の事業開発を担当。
メタバースのイメージを体験されたい方はこちらから。
https://www.transcosmos-cotra.jp/meta