トランスコスモスの福島が、最新のマーケティング事情についてゲストを招いて語らう対談。
今回は、メタバース文化エバンジェリストであるバーチャル美少女ねむ氏にお話を伺います。バーチャル美少女ねむ氏は作家としても活動されており、2023年2月には『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』が「ITエンジニア本大賞2023」のビジネス書部門で大賞を受賞されました。
対談ではメタバースにおけるロイヤルティマーケティングやCXをテーマに、メタバースの現状や仮想現実における企業の在り方などについて語っていただきました。また今回はファシリテーターとして、当サービスのイメージキャラクター、「護永こすも」も参加し、非常に先進的なインタビューとなりました。
第3回目は、「メタバースにおけるビジネス活動」です。
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メタバースにおけるビジネス活動
護永こすも(以降、こすも):前回、メタバース上でのCX戦略についてご説明いただきましたが、メタバースにおけるロイヤルティマーケティング、CX向上を含むビジネス活動はどのような形態で行われるのでしょうか。
福島常浩(以降、福島):現在、マーケティングは非常に大きく変わってきています。ひとつのきっかけはIT技術の進歩ですが、もうひとつ、実はこの十年から二十年の間に世の中のすべてのものが成長から減速、縮小へと転じていることです。人口もそうです。これまで世の中は成長し続けていましたが、これからはすべてが縮小していきます。このスローダウンを背景に、これまでのように商品やサービスを「売って終わり」というマーケティングは見直されていきます。今後は、商品やサービスを長く愛し続けてもらうロイヤルティマーケティングへ移行します。一度ご縁をいただいた方との関係性を大切にし、長くお付き合いをしていくということが中心になっていくでしょう。なぜなら市場は増えずに、むしろ減っていく方向に動きますから、顧客と良好な関係を築く必要があるわけです。
メタバースの中ではひとりひとりの顧客との関係が非常に作りやすいということと、ダイレクトに生産者の方などと会話ができるといったお話を伺いました。
ロイヤルティマーケティングやCXを強化するためには、非常に有効な空間です。
バーチャル美少女ねむ(以降、ねむ):メタバースとは少しずれますが、いわゆるVTuber(バーチャルYouTuber)といった存在は、ロイヤルティマーケティングやファンベースコミュニケーションの究極形のようなものだと思います。最近のVTuberは、サブスクを利用して収益化することが当たり前になってきています。例えば、あるVTuberがいたとして、彼らに月々お金を払いますよというファンがいたとします。しかし、そこに必ずしも物質的な対価はありません。「その人が好きだから応援のために寄付をします」ということが成り立つ訳です。その対象はVTuberや配信者だったり、ビジネス・IT系の有名人だったりします。このような有名人に対するサブスクが新たなビジネスモデルとして注目されていますが、私の予想では、メタバースが普及すれば、有名人だけではなく一般人に対してもそういったビジネスモデルが当たり前になっていくと考えています。
例えば、今のメタバースでいうと3Dモデラーやワールドクリエイターの方々はクリエイティブを無料で配布しているというケースも少なくありません。その方々に活動を続けてほしい、応援したいという理由から、対価はないけれど彼らをサブスクで支援するという行為が、カルチャーとして出来上がりつつあります。
今後、こういうカルチャーは当たり前になっていくでしょう。
経済規模としてはまだまだ小さいですが、ロイヤルティマーケティングが次のステージに進んでいくというか、無形のものに対する応援の気持ちがビジネスになるような時代になっていくのではないでしょうか。
3Dモデラーさんだったり、プログラマーさんだったり、いろいろな職業の方がより活躍しやすい時代になってくるかもしれません。
福島:そうですね。クリエイター職についていえば、美大を卒業した学生のうち、そういった職業につけるのは10人に1人程度といわれています。そういった方々がメタバースに活躍の場を見出すことができることにも繋がるわけですね。同様に、それ以外の業種でもメタバースは機会創出になり得ると。
ねむ:音楽の分野でも同様です。メタバース内で自分のキャラクターを作って、もう一人の自分として音楽ライブやDJをしている人がたくさんいます。物理現実だと人生は1人につき1個だけだったので、音楽の場合はアーティストとしての人生にフルコミットするか、完全にあきらめるかの究極の2択でしたが、メタバースがあると、自分という存在をいくつも持つことができます。
私自身もそうです。昼間は会社員として働いていますが、夜中は「バーチャル美少女ねむ」として、音楽ライブをしたり、アイドル活動をしたり、本を書いたりしています。いくつもの人生に同時に挑戦することができて、フルコミットする必要がありません。自分をバシッと二つに切り分けて、昼の自分、夜の自分と全く別のキャラクターでいることができるようになります。そういうことが気軽にできますし、実際にやっている方々が大勢いらっしゃいます。そういう生き方もこれから当たり前になっていくでしょう。
福島:分人化していれば、そのうちの1人が失敗してもリスクが少ないですね。逆に、メタバースがそういう方向に成長していく中で、阻害要因になり得るかもしれないものはありますか。
メタバース上のビジネス課題
こすも:阻害要因という点では、一時期、メタバースとNFTをはじめとするWeb3.0技術との混同が問題になっていましたが、現状ではどのような見方になっているのでしょうか。
ねむ:前置きとして、私自身はNFTや仮想通貨に否定的なわけではなく、未来を変えうる技術のひとつだと思っていて活動開始時点から注目していました。実は、私の頭についている髪飾りのうちの一つは仮想通貨「Nem」のロゴマークです。
私が考える「なりたい自分」の条件のひとつはメタバースで経済活動ができることです。アバターで見た目だけ着飾ってもコスプレの延長でしかないですが、キャラクターとしてきちんと経済活動に参加することで、まさに「なりたい自分で生きていく」ことが可能になります。
仮想通貨等の技術が発展していくと、メタバースの中でバーチャルキャラクターになって経済活動に参加し、実名を晒さなくても収入を得ることがしやすくなるので、それが加速すると思います。
仮想通貨の技術をつかったものに「NFT」というものが最近注目されていますが、これは例えばデジタル化されたトレーディングカードのようなもので、トークンに価値をつけて個人間で売買ができます。一時期、そのNFTをメタバース上で高く売りたいという人たちが大量に参入してきてしまいました。データに価値をつけられることで、どうしても投機に繋がりがちなのです。残念なことに、本質的にあまり価値のない仮想通貨を、技術に明るくない人たちに対して「何かすごそうなもの」として売りつけるようなビジネスが、仮想通貨の世界では起こりがちで、気をつけないといけない所です。
今回のNFTではメタバースがターゲットになってしまっていて、例えば「NFTでメタバースの土地が売買できる」「早く買わないとメタバースの土地が高騰して買えなくなる」などと煽る投機家がいましたし、彼らはメディアにもメタバースとはそういうものだとアピールをして誤解を生むような番組や記事が出回ってしまいました。
しかし、実際には私が使っているようなソーシャルVRをはじめ、ほとんどのメタバースでは、空間を無限に無料で作ることができます。
福島:渋谷が100個、200個同時に存在することがあり得る空間だと理解しています。
ねむ:はい。そのため必ずしも現実の「土地」のような感覚で取引することは必要ないはずですが、そういったものを煽ったり、売り逃げするような行為をする人たちが存在したのです。
メタバースの住人がNFTや仮想通貨などの技術に良い感情を抱いていないことが多いのは、そのような背景がありました。
ただ、去年NFTバブルがはじけて価格も下がってきましたし、現状としては、落ち着きを取り戻してきているかと思います。今はさすがに、メタバースとは「NFTで土地をやり取りする場所である」と認識している人は少なくなってきているのではないでしょうか。
福島:それではメタバース上で物をやり取りしたりする場合は、どうやってお金を支払いするのが主流なのでしょうか。やはり、クレジットカードなどでしょうか?
ねむ:例えば、今私のいるメタバース空間である「NeosVR」では仮想通貨のやり取りをする機能が実装されていますが、ユーザー同士では実はあまり使われていないのが実態です。なぜかというと、仮想通貨は価格の変動が激しいからです。明日いくらの価値になるかわからないものを個人間の取引には利用しづらいですよね。では、実際何を使って取引しているのかというと、現実世界と変わらず、日本円などの法定通貨を使った銀行振込やデジタル決済などです。それから、アマゾンギフト券などもよく使われます。
メタバースにはお金を取引する仕組みが実装されていないから経済が大きくならないのだとおっしゃる方が多いですが、オンライン上でのお金の取引自体はすでに普及している技術なので、より便利にはなってほしいですが、そこだけがボトルネックではないと思っています。
福島:すごくほっとしました。私もメタバースの実態とNFT、ブロックチェーンといった技術は必須ではないと思っています。メタバースでの市場が大きくなれば、そこでの取引を確保したいという人はでてくるかと思いますが、ねむさんが仰ったように法定通貨の取引で問題がないということですね。匿名性の確保やオンライン決済の容易性というものは必要になりますが、NFTや仮想通貨に限定せず、メタバース上で使える便利な決済手段があればそれで良いかと思います。たしかに仮想通貨は価値の変動性が高いということで、誰もが簡単に使うわけにはいかないでしょう。ただ、現代の法定通貨も為替の影響があったりと、必ずしも兌換性はありません。しかし、日本円であれば日本国民の全員が利用しますし、海外でも使われる状況にありますから、仮想通貨に比べて、レートは比較的安定したものになります。
繰り返しですが、メタバース上の取引に都合のいい決済手段があればそれを使えばいいだけの話かと思います。メタバースという最新技術の中では、なんでも最先端の技術のものを使わないといけないという先入観が生まれがちですが、我々が現実世界で仮想通貨のやり取りをすることがありように、メタバース上で法定通貨を使用しても不思議なことではありません。
ねむ:はい、まさにその通りだと思います。メタバースだから仮想通貨を使わないといけない、というわけではないです。仮想通貨はあくまで「手段」であって、メタバースにおける経済活動の本質はメタバース上でいかに「新たな自分として経済を回していくか」ということだと思っています。
バーチャル美少女ねむ氏、トランスコスモス福島常浩の対談 第1回:メタバースの生活と経済圏の現状
バーチャル美少女ねむ氏、トランスコスモス福島常浩の対談 第2回:メタバース上でのCX戦略
バーチャル美少女ねむ氏、トランスコスモス福島常浩の対談 第3回:メタバースにおけるビジネス活動
バーチャル美少女ねむ氏、トランスコスモス福島常浩の対談 第4回:メタバースの今後の展望と理想的な企業活動
対談者プロフィール
メタバース文化エバンジェリスト・バーチャルYouTuber
バーチャル美少女ねむ
メタバース原住民にしてメタバース文化エバンジェリスト。「バーチャルでなりたい自分になる」をテーマに2017年から美少女アイドルとして活動している自称・世界最古の個人系VTuber(バーチャルYouTuber)。VTuberを始める方法をいち早く公開し、その後のブームに貢献。2020年にはNHKのテレビ番組に出演し、お茶の間に「バ美肉(バーチャル美少女受肉)」の衝撃を届けた。ボイスチェンジャーの利用を公言しているにも関わらずオリジナル曲『ココロコスプレ』で歌手デビュー。作家としても活動し、著書に小説『仮想美少女シンギュラリティ』、メタバース解説本『メタバース進化論(技術評論社)』がある。フランス日刊紙「リベラシオン」・朝日新聞・日本経済新聞などインタビュー掲載歴多数。VRの未来を届けるHTC公式の初代「VIVEアンバサダー」にも任命されている。
2022年は文化庁や総務省にもメタバースに関する情報提供やアドバイスを行っており、東京大学で講義したり、各種学術イベントでも講演活動を行った。テレビ番組や雑誌、国際ドキュメンタリーにもゲスト出演多数。 アバター文化への貢献が認められ、キズナアイ以来史上二人めとなる一般社団法人VRMコンソーシアム「アバターアワード2022 特別功労賞」受賞。「MoguLive VTuberアワード2022」では「今年最も輝いたVTuber “7位”」に選出された。
2023年には『メタバース進化論』で「ITエンジニア本大賞2023」ビジネス書部門”大賞”を受賞し、VTuber初の大賞作家となった。
(バーチャル美少女ねむ公式プロフィールより引用)
note: https://note.com/nemchan_nel
Twitter: https://twitter.com/nemchan_nel
トランスコスモス株式会社 上席常務執行役員
福島常浩
1982年に東京工業大学大学院を修了。味の素株式会社にて多変量解析を用いた市場定義モデルの開発、マーケティング部門において家庭用新製品開発及び新事業開発のマーケティング責任者、コンビニエンスチェーンとの大型製販同盟の事業を担当。 その後、GE Capital、三菱商事、ぐるなび、メディカルデータビジョンを経て、ビッグデータ事業、デジタルマーケティング責任者等を歴任。日本マーケティング協会公認マーケティングマイスター、一般社団法人市場創造学会代表理事・事務局長に携わる傍ら同志社大学で教鞭も取っている。2023年現在、トランスコスモス株式会社 上席常務執行役員としてマーケティング関連の事業開発を担当。
メタバースのイメージを体験されたい方はこちらから。
https://www.transcosmos-cotra.jp/meta