『マーケティング5.0(Marketing 5.0 / Philip Kotler)』時代ではマーケティングオペレーションをいかに迅速に実行できるかが重要になっています。アジャイルマーケティングという言葉を書籍、WEBでよく見かけるようになりました。しかし、実際にはどういうものか説明できない人が多いのではないでしょうか。曖昧な解釈で実践しているつもりになっているケースもあります。今回はアジャイルマーケティングについて、その実践のポイントも含めて理解を深めていきたいと思います。
Contents
アジャイルマーケティングの「アジャイル」とは
アジャイル(Agile)は「俊敏な、敏捷な、回転が早い」などの意味を持つ英単語です。日本では2012年に出版された『The Lean Startup』がきっかけとなって知られ、現在ではアジャイルマーケティングの他にもアジャイル組織、アジャイル経営、アジャイル開発など、さまざまな場面で使われています。
アジャイルは元々「環境に適応し、最も効率的に不確実性を減少させることができている状態」を表現する概念としてソフトウエア開発の分野で使われてきたものです。ここでいう不確実性は未来や他人、外部環境を指します。「不確実性によって物事が計画通りに進まなくなる可能性は排除できないが、不確実性を最小限に抑えながら物事を実現させよう」というのがアジャイルの思想です。
アジャイル開発は一度に高度な完成形を提供しようとしません。小さな規模で市場に出してみて顧客の反応やデータに応じた改善を行います。このプロセスを迅速に繰り返すことで実際の顧客ニーズにあわせたプロダクトの開発が可能になります。
アジャイルマーケティングとは
アジャイルマーケティング(Agile Marketing)とは、上記のアジャイルという思想をマーケティングに応用したものです。近年テクノロジーの進歩やチャネルの多様化によりデータドリブンマーケティングが可能になりましたが、それと同時にマーケティング環境の不確実性も高まっています。新しいテクノロジーがどんどん生まれ、常にアップデートを続けていますし、顧客ニーズも変わりやすくなっています。コストや時間をかけてじっくり市場調査や要件定義を行い、業務をひとつずつ順番に行うウォーターフォール型のビジネスを続けていては、途中で変化が発生しても「はじめてから時間が経っているため軌道修正が難しい」という状況に陥りがちです。
こうした変化を受けマーケティングの世界でも「まずは小さな規模で世の中に出してみて顧客の反応を捉え、その後分析とテストを繰り返しながらチューニングしていく」アジャイルマーケティングが注目されているのです。リアルタイムのデータが取得できるようになったことでマーケティングは経験主義的なものへと変化しています。これからのマーケティングで求められるのは、データドリブンマーケティングをベースに、小規模のPDCAを繰り返し変化に順応しながら顧客に価値を提供し続ける姿勢です。
さまざまなビジネスがパッケージ型の大型バージョンアップの販売形式から、サブスクリプション型へ移行しこまめな製品アップデートを繰り返しているのもこうした影響を受けているといえます。
アジャイルマーケティングの5つのポイント
アジャイルマーケティングを実現、成功させるためには5つのポイントがあります。世界は常に変化し続けるものです。完璧を求めすぎると、いつまでたっても顧客に価値を提供できなくなってしまいます。人も仕事も完璧はない、重要なのは完璧なものをつくることではなくできるだけ早く顧客に価値を届けることです。それを実現するために完璧でないものも受け入れる、そしてそのうえで最善のものを生み出そうと行動し続けるというのがアジャイルマーケティングの本質といえるでしょう。
顧客ファースト
迅速により多くの価値を顧客に提供する
どんなにすばらしい製品やサービスも顧客に求めてもらえてはじめて価値を持ちます。変化し続ける顧客ニーズに応え続けるためには、業務や組織のあり方も顧客中心に変えなければなりません。業務や組織ありきではなく「顧客が必要としていること」を軸に、やるべきことの選択やその推進に注力します。
迅速な実験とリアルタイムのアナリティクスを重視し反復を繰り返す
実際に市場に出すことでリアルな顧客の反応がわかります。データをもとに結果を分析して改善を行い、再び市場に出します。一度に完成させる必要はなく、このプロセスを迅速に反復することで顧客の理想に近づいていくことが重要です。
旧来型の組織構造からの脱却
セクションをまたいだ小規模の組織をつくり、チーム内の相互作用を重視する
縦割りの階層構造では最も重要な顧客がどこにもおらず、新しい情報や変化をキャッチできても顧客に適用できません。アジャイルマーケティングには小規模のプロジェクトを遂行できる柔軟な組織構造が不可欠です。チームで日常的に集まり話し合うことも重要です。
フレキシブルなプラットフォームとプロセス管理
プラットフォームは変更要素を加えることで新しい製品やサービスにも対応できるのが理想です。前のプロセスが終了していなくても次のプロセスをはじめられるような柔軟性も必要です。
オープンイノベーションの取り入れ
改善案や新しいアイディアは企業内だけではなく、必要に応じて外部からも取り入れるようにしましょう。異文化、異分野、異業種の見地を取り入れ、新しい技術革新を起こすことでよりよい商品・サービスの開発のきっかけになります。
デジタル社会におけるインターネットやSNSの発展により、マーケティングは変化し続けています。商品開発においても例外ではありません。高速かつ柔軟なマーケティングの実行が、今後のビジネスの未来を決めていくでしょう。