マーケティングミックスは、企業が顧客にどんな製品・サービスを、どのようにして提供するかを計画する実行戦略のことです。戦略の構成要素の頭文字をとって「4P」とも呼ばれており、市場調査によって把握された顧客のニーズやウォンツに基づき開発され、構想から生産までの多くの部分が企業によってコントロールされてきました。しかし、デジタル経済においては、企業が一方的に製品開発をするのではなく、顧客と共に製品を創りあげる新しい動きが出てきています。
4Pによるマーケティングミックスとは
まずはマーケティングミックス「4P」とはなにかをみていきましょう。
4Pのマーケティングミックスは、4つの「P」で構成される
- 製品(Product)
- 価格(Price)
- 流通(Place)
- 販促(Promotion)
4Pは1960年にエドモンド・ジェローム・マッカーシーによって提唱され、友人であったフィリップ・コトラーが使っている分類として、現在のマーケティングの基本となり広く認知されています。企業は製品開発の際に、なにを提供するか(どのような「製品」を、どのような「価格」で)を決め、どのように「流通」させ、どんな方法で「販促」するかを検討する必要があります。これらの要素である4つの「P」が最適に設計されていれば、顧客はその価値提案に引き寄せられ、販売へと結びつきやすくなると考えられています。
これは、製品志向・製品販売を目的とする、企業から見て製品管理に重きをおいた製品中心のマーケティングが4Pによる考え方でした。しかしインターネットの発展の恩恵を受けて、顧客が常時ネットに接続されている今日においては、マーケティングミックスの概念は顧客参加の機会拡大に対応できるように変化してきているのです。
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4Cによるマーケティングミックスとは
それでは「4C」とはなにかをみていきましょう。この記事では、2つの「4C」モデルを紹介します。
まず、1993年にロバート・ローターボーンによって顧客側の視点として分類された4Cが以下の構成要素となります。
- 価値(Customer Value)
- コスト(Cost)
- 利便性(Convenience)
- コミュニケーション(Communication)
一方で、フィリップ・コトラーが『マーケティング4.0』で提唱した4Cは少し異なり、以下の要素で構成されています。
- 共創(Co-creation)
- 通貨(Currency)
- 共同活性化(Communal activation)
- カンバセーション(Conversation)
デジタル社会においては、顧客の声を聴き、共に製品を創りあげる共創が新しい製品開発の戦略として生まれています。製品のコンセプト段階から顧客を巻き込めば、製品開発の成功率が高められ、さらには優れた価値提案を生み出すことが可能になると考えられます。
価格設定は、今まで一定だった標準価格の設定がダイナミックプライシング※へ進化しています。テクノロジーの進歩により、この手法がオンライン小売業にも広がってくるでしょう。ビッグデータから顧客プロフィールのさまざまな要素に基づき、顧客ごとに異なる価格設定が可能となっているのです。デジタル社会では、価格は需給状況により絶えず変動する通貨のような状態となるのです。
※ダイナミックプライシング(動的価格設定)とは、需給関係に基づき柔軟な価格が設定されるもので、ホテルや航空券などで以前から使われていた手法。
販売チャネルの概念も、デジタルにより大きな変化が出てきています。シェアリングエコノミーの発展によりピアツーピア※が台頭してきています。AirBnb(エアビーアンドビー)、Uber(ウーバー)などのテック系企業が既存のホテル産業やタクシー業界へ打撃を与えているように、こういった新しいビジネスモデルの企業は、他社が所有している製品やサービスを顧客が簡単に利用できる仕組みを提供しています。
※ピアツーピアとは、peer-to-peerの略で、主にコンピュータで使われる用語です。peer(同等の立場)同士で通信をすることで、サーバーとクライアント端末という主従関係ではなく、クライアント端末同士が直接通信するイメージ。ここではテック企業が提供するプラットフォーム上で、ユーザー同士が直接つながりやり取りすることをいいます。
デジタル社会においては、顧客は製品・サービスを欲しいと思ったら、即座に購入したり利用することが可能です。すなわち、自分が所有していないものでも、他者が所有しているものをすぐに使うことができます。これを共同活性化といいます。
プロモーション概念も変化してきています。かつては、一方的に企業がメッセージを発信してきましたが、ソーシャルメディアの発展により、顧客はそのメッセージに返答することが可能となりました。他の顧客との横のつながりにより、カンバセーションすることも可能となっているのです。さまざまなプラットフォームで、どのように顧客とコミュニケーションするかが非常に重要となってきています。
製品開発を4Pから4Cへシフトしていこう
以上のように、4Pから4Cへと企業はマーケティングミックスを変化させなくてはならない時代になっています。4Pが製品志向・製品販売を目的とする「企業からの目線」である一方で、4Cは「顧客からの目線」かつ「デジタル社会の特性」を包括した実行戦略です。企業は、4Cをベースに製品・サービス開発を考えていくことで、時代に適合していくことができるでしょう。
ここで注意したいのが、デジタルマーケティングが、これまでの伝統的マーケティングに取って代わるものではないということです。
2つのアプローチはカスタマージャーニーにおいて、それぞれの役割があり共存すべきもので、特に認知と関心の構築には伝統的マーケティングが大きな役割を果たし、顧客が企業とより緊密な関係を求めるようになるとデジタルマーケティングの重要性が高まります。それぞれのアプローチの特徴を踏まえ、マーケティング4.0ではオフラインの行動とオンラインの行動を統合して捉えていくことが重要となっています。
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