ニーズとは何でしょうか。マーケティングにおいては基本的で、かつ非常に重要な概念ですが、あらためてその意味を説明しようとすると少しむずかしいのではないでしょうか。ニーズとは英語のneeds、訳して必要、欲求などを意味する言葉です。コトラーはニーズについて「人が生活するうえで必要な充足感が満たされていない状態」と説明しています。充足感が満たされていない顧客は何らかの欲求を抱いています。マーケティングの世界では顧客が理想とする状態と現状とのギャップ、すなわち「〇〇したい」という欲求を意味する言葉としてニーズを用いるのが一般的です。
ニーズとウォンツの違いを理解する
似た言葉にウォンツがありますが、こちらは顧客が理想とする状態を実現できる「手段」を求めている状態です。たとえば顧客が「掃除ロボットが欲しい」という場合、これはウォンツ(=手段)です。この顧客のニーズは「家事の時間を節約し、他のことに時間を使いたい」「もっと楽に部屋をきれいにしたい」などであると考えられます。たいていの場合顧客の言葉はウォンツであるため、そこから本質的なニーズを発見し理解することが重要です。
コトラーはマーケティングを「ニーズに応えて利益を上げること」と定義しています。これをもう少し具体的に説明すると、ターゲットとする顧客のニーズを理解し、それを満たす価値を創造し、顧客に届けることによって利益を獲得する活動と説明することができます。
心理学の世界では、人間の行動の背景には必ずニーズ(=欲求)があると考えますが、人間は必ずしも自分自身のニーズを明確に認識できているとは限りません。マーケティングの世界では顧客が自覚しているニーズを顕在ニーズ、顧客が自覚できていないニーズや、うまく言い表せないニーズを潜在ニーズと呼びます。
これまでのマーケティングとこれからのマーケティング
顧客は自分のニーズが満たされそうだと感じる商品やサービスを選択します。そのためマーケティングのフレームワークでは、顧客のニーズをどのように満たすかという点を重要なテーマとして扱ってきました。マーケティングがニーズを満たすための活動であることはこれまでもこれからも変わりませんが、これまでのマーケティングとこれからのマーケティングでは、同じ商品でも満たすべきニーズが大きく異なる点には注意しなければなりません。
例えばあるコーヒー飲料の場合を考えてみましょう。これまでのニーズは「のどの渇きをいやしたい」「おいしい味を味わいたい」というものでした。ここで考えられてきたニーズはその商品の品質がニーズを満たすかどうかであり、きわめてモノ寄りのニーズといえます。
一方、これからのマーケティングで考えなければならないのは、その商品を1回消費することでニーズを満たせるかどうかではありません。基本的欲求が満たされた顧客はより高次欲求を満たしたいと思うようになっています。インターネット技術の向上やスマートフォンの普及により顧客自身が能動的に情報を収集したり発信したりするようになったことで、顧客の価値観や嗜好は非常に多様化しています。このような時代では、例えばコーヒー飲料の味そのものでニーズを満たそうとするには限界があります。もっと長期的に顧客と良好な関係性を構築すること、つまりロイヤルティを形成していくことが非常に重要になってきています。
『マーケティング4.0』のロイヤルティマーケティングの本質
この変化について、コトラーは『マーケティング4.0』のなかで明言しています。顧客が購入した商品の情報を他の顧客とシェアしたり、推奨し合ったりする時代では、企業は顧客の自己実現欲求を満たせる商品を提供し、顧客に商品の宣伝をしてもらえるような戦略を練る必要があります。顧客のニーズは社会貢献活動に参加したい、世界をよりよくしたいなどといった高尚なものになっています。企業はそうしたニーズにもっと注目し、理解し、自社の商品やサービスを通じてどのように満たすことができるかを考えていかなければなりません。これがマーケティング4.0におけるロイヤルティマーケティングの本質です。
先の例でいえば、のどの渇きという単純なニーズよりももっと深いニーズを意識しなければなりません。例えば原料のコーヒー豆をフェアトレードで輸入し、その取り組みを上手に顧客にアピールしていくことが必要です。顧客にこの商品を購入すれば自分も世界をよくする活動に参加できる、社会貢献活動を行う企業を応援できる、と感じさせることができれば顧客の自己実現欲求を満たすことができるでしょう。
こういったニーズに対する満足度はこれまでのマーケティングの枠組みの中では一切考慮されてきませんでした。これまでのマーケティングは営業、広告・宣伝などをテーマとして扱い、あくまでもモノによるニーズの充足を焦点としてきました。しかしロイヤルティマーケティングの時代で顧客に選ばれるためには、顧客の自己実現欲求を満たすことを目指さなければなりません。ニーズが物質的なものから精神的なものへと大きく変わってきていることを理解しましょう。CS(顧客満足度)ばかりではなく、CX(顧客体験)をより重視したマーケティングを行えるかが競合優位を実現するための鍵となります。
コトラーが『マーケティング3.0』で顧客は全人的な存在であると説明したように、最近の顧客は商品そのものがどんなに優れていたとしても、生産者を搾取するような原材料を扱う企業や、コミュニケーションを重視しない企業の商品を選ぶことはありません。顧客は意思決定の際にその企業を信頼できるかどうか、好きでいられるかどうかを重視するようになってきているのです。
福島常浩が御社のマーケティングをディレクションいたします
トランスコスモスでは、フィリップ・コトラーの提唱する5Aコンセプトに沿ってマーケティング戦略提案をいたします。実際のご提案に際しては、当記事の解説者である福島常浩がデジタル時代に最適化したロイヤルティマーケティングをサポート。まずは御社のお悩みをお聞かせください。
トランスコスモス株式会社 上席常務執行役員
公益社団法人日本マーケティング協会 理事
福島常浩
東京工業大学大学院修了後、味の素株式会社に入社。その後、GE Capital、三菱商事、ぐるなび、メディカルデータビジョンを経て、ビッグデータ事業、マーケティング責任者等を歴任。専門分野は、新事業・新製品開発、ブランド論、医療ビジネス、ロイヤルティマーケティング。トランスコスモスではマーケティング関連の事業開発を担当し、書籍 『コトラーのマーケティング4.0』 で紹介された5A診断を日本で独占的に提供している。